大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)737号 判決 1979年3月20日
原告
大杉俊弘
被告
尾崎政雄
主文
一 被告は、原告に対し、金四三五万〇三八〇円および内金三九五万〇三八〇円に対する昭和五〇年五月三〇日から、残金四〇万円に対する同五三年二月二四日から、各支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その六を原告の、その余を被告の、各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
(主位的請求の趣旨)
1 被告は、原告に対し、金一一〇〇万円および内金一〇〇〇万円に対する昭和五〇年五月三〇日から、残金一〇〇万円に対する同五三年二月二四日から、各支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
(予備的請求の趣旨)
1 被告は、原告に対し、金一〇一四万円および内金九一四万円に対する昭和五〇年五月三〇日から、残金一〇〇万円に対する同五三年二月二四日から、各支払済まで、年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 各請求の趣旨に対する答弁
1 原告の各請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和五〇年五月三〇日午前七時五五分頃
2 場所 和歌山県那賀郡桃山町大字最上九四番地先道路上
3 加害車 普通乗用自動車(和五ぬ六、〇七九号)
右運転者 被告
右所有者 被告
4 被害車 普通乗用自動車(三五五さ七二五号)
右運転者 原告
5 態様 被害車が前記道路(進行方向右寄りにカーブしていた。)上を東進中、加害車が、自車前方を走行中の訴外車両を追越して被害車の進路をふさいだため、被害車に正面衝突した。
二 責任原因(運行供用者責任、自賠法三条)
被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。
三 損害
(一) 受傷 右膝蓋骨々折(開放性粉砕)、頭部打撲、歯牙折損、顔面挫創(下口唇切断)
(二) 治療経過
1 入院 昭和五〇年五月三〇日から同年六月三日まで五日間(国保那賀病院)
右六月三日から同年八月一日まで六〇日間(中谷医科歯科病院)
右八月一日から同月一二日までおよび同五一年一月二〇日から同月二八日まで合計二一日間(谷整形外科)
2 通院 同五〇年八月二日から同年九月四日まで実日数三四日間(中谷医科歯科病院)
同年八月一三日から同年一〇月三一日までおよび同年一一月一日から同五一年二月二五日まで実日数合計七八日間(谷整形外科)
(三) 後遺症 上顎部四本および下顎部一〇本の歯牙欠損、右膝関節部痛および膝蓋骨変形膨大化、右膝部前下部に弧状の長さ一二センチ、幅四ないし五ミリの創痕
(四) 歯牙欠損に基く損害
1 逸失利益(主位的請求)―金一三三五万八八六五円
(現在、原告=住友金属工業株式会社、和歌山製鉄所に勤務=に具体的な損害は存しないので、所得喪失説ではなく労働能力喪失説に基いて、請求するものである。)
(根拠)
本件事故直前三ケ月の給料 金一三万六一六〇円
金一六万六〇二七円
金一四万〇八六二円
本件事故当時の年間賞与 金五四万九七〇〇円
労働能力喪失率 二七%(歯牙補綴が一四歯なので後遺障害別等級表一〇級に該当する。)
就労可能年数 三九年(本件事故当時の原告の実質上の年齢二八歳から就労可能な六七歳まで)
ホフマン係数 二一・三〇九
(算式)
<省略>
2 取替補綴の費用(予備的請求)―仮に歯牙補綴の場合には労働能力の喪失がなく、したがつて、逸失利益が存しないとしても、歯牙補綴により生じた生理機能の減退等を慰藉料の斟酌事由として考慮すべきことを、および将来における歯牙の取替補綴のための費用、金四六四万円を支払うべきことをいずれも予備的に請求する。
(取替補綴の費用の根拠)
一四歯分一体として(但し、材料はポーセレンを使用)金一一六万円(硬質レジンの二倍の金額)
耐用年数 平均一〇年
取替必要回数 前記二八歳以降少くとも四回必要
(算式)
1,160,000×4=4,640,000
(五) 慰藉料 金四五〇万円
1 入通院分 金一五〇万円(前記入通院期間の長さの点、原告の妻が本件事故の翌日に出産したのに原告が妻に対し付添や見舞もできなかつた点、右入通院期間中における休業のため将来の昇進や昇給に影響する可能性がある点、傷害の程度が軽傷とはいい難い点等を考慮されたい。)
2 後遺症分 金三〇〇万円(前記後遺症の部位、程度の点、人工の歯牙補綴により、前記のとおり、生理機能の軽退等=例えば咀嚼力の不十分さからくる消化機能の衰弱や食生活における楽しみの喪失等=をもたらす点等を考慮されたい。)
(六) 弁護士費用 金一〇〇万円
四 本訴請求
よつて、各請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、主位的請求については、弁護士費用を除く損害につき内金一〇〇〇万円の限度で請求する。
また、遅延損害金は、主位的請求の内金一〇〇〇万円ないし予備的請求の内金九一四万円については本件不法行為の日から、各請求中の弁護士費用金一〇〇万円については訴状送達の翌日から、いずれも民法所定年五分の割合による。)を、求める。
第三請求原因に対する認否
請求原因第一、二項の事実は全部認める。同第三項、(一)、(三)の事実は不知、その余の事実は否認し、法的主張は争う。
第四被告の主張(すべて事情である。)
1 逸失利益(主位的請求)について―歯牙欠損については、原告自認のとおり、義歯による補綴が可能であるから、労働能力の喪失は考えられず、したがつて、逸失利益が生ずる余地はない。
2 歯牙の取替費用(予備的請求)について―今から三〇年も先には、社会保障制度もますます整備され、義歯の取替などは、すべて公的費用で賄われている筈であり、また、本件事故は通勤途上で生じたものであるから、労災の適用が可能であり、そこからも給付されるべき性質のものである。したがつて、歯牙の取替費用は、そもそも、否定されるべきである。
仮に肯認されるとしても、補綴した歯牙の耐用年数を一応一〇年とすると、本件事故により歯牙補綴をした時の原告の年齢は、満二八歳であるから、原告は三回目の取替時に五八歳、四回目の取替時に六八歳となるところ、原告には本件事故当時既に虫歯が存したのであるから、果して、本件事故がなかつたとしても右のような高齢まで欠損した歯が健在するか否かは甚だ疑しいので、取替回数は、二回をもつて限度とすべきである。
3 慰藉料について―(イ)入通院慰藉料について―原告の入院は、約三ケ月、通院は約七ケ月であるから、大阪地裁基準(軽傷)によつても、金一〇〇万円を超えることはあり得ない。(ロ)後遺症慰藉料について―本件事故と相当因果関係のある欠損歯は一一歯であるところ本件事故当時の後遺障害別等級表によれば、右は一二級三号にしか該当しない。仮に原告に局部に神経症状が残つている(同表一四級九号)ことを考慮しても、同表上、一二級以上にはなり得ない。尤も、その後同表は改正され、昭和五〇年九月一日以降に発生した交通事故による後遺障害に対し適用される同表によれば欠損歯一一歯の場合には一一級四号に該当することになるものの、本件事故の発生は、前記のとおり同年五月三〇日であるから、結局、右一一級四号を基準とすることは、ついになし得ないのである。とすれば、大阪地裁基準によつても、金八三万円(金一〇四万円の約八割)にすぎない。
仮に一一級に該当するとしても、本件事故当時の一一級の金額を前提とすれば金一一九万円(金一四九万円の約八割)にとどまるのである。
第五被告の主張に対する原告の反論
前記等級表は、裁判所が損害額を認定するに際しての一資料にすぎない。同表と関係なく判断を下している裁判例も多数存する。
第六証拠〔略〕
理由
第一事故の発生および責任原因
請求原因第一、二項の事実はすべて当事者間に争いがない。そうすると、被告には、自賠法三条により本件事故に基く原告の損害を賠償する責任がある。
第二損害
(一) 受傷、治療経過、後遺症
原本の存在とその成立について争いのない甲第二ないし第七号証の各一、二(但し、同第五号証の一、二および同第七号証の一については、後記採用しない部分を除く。)、同第八号証および弁論の全趣旨を総合すると、請求原因第三項、(一)ないし(三)(但し、右(三)中の歯牙欠損の本数の点を除く。)の各事実を認めることができ、これに反する甲第五号証の一、二および同第七号証の一の各一部ならびに乙第三、第四号証は、前掲証拠および弁論の全趣旨と対比し、採用せず、他に右認定に反する証拠はない。
次に、歯牙欠損の本数の点について検討する。原本の存在とその成立に争いのない甲第五号証の一、二、同第一四号の一ないし四、成立に争いのない乙第二号証、証人中谷伸家の証言(但し、後記措信しない部分を除く。)および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、本件事故直後における原告の欠損歯は、上部右側の1、2、6、上部左側の1、2、下部右側の1ないし5、下部左側の1ないし5、以上合計一五本であつたが、外傷により歯牙(一本、一本の歯のこと。)が破折し、かつ、脱臼(凹凸状になつている歯槽骨=歯牙を支えている骨のこと。=の凹部、すなわち、穴状部分に、歯牙がはまつており=右のはまつている部分を歯根という。=、右歯根と歯槽骨とは歯根膜で結合されているところ、歯牙が右の穴状部分からはずれることをいう。)したものは、上部左右両側の各1、2、下部右側の1ないし4、下部左側の1ないし3の、合計一一本であり、また、外傷により歯槽骨が骨折したものは、上部左右両側の各1、2、下部左右両側の各1ないし3の、合計一〇本であり、そして、上部右側の1、2は、埋伏歯および外傷後における腐骨の状態にあつた。ところが、右の欠損歯中の、上部右側の6、下部左側の4、5は、いずれもC3慢化per(Cは、カリエス=虫歯のこと。=のことであり、C3は、カリエスをC1からC4まで段階付けた時の三段階目の悪化状態=C3は、髄質にまで達する状態、C4は残根状態を、各指称する。=のことであり、慢化は、慢性の化膿性のことであり、perは、periodontitis=歯根膜炎=のことである。換言すれば、虫歯三度の慢性化膿性歯根膜炎のことである。)の状態にあり、本件事故がなくても抜歯し、欠損補綴を必要とする状況にあり、また、下部右側の5は、先天的あるいは後天的な、なんらかの理由により欠損したもので、仮に後天的理由により欠損したとしても、本件事故によるものか否かは不明である。
以上の事実を認めることができ、これに反する乙第一、第三号証、証人中谷伸家の証言の一部、原告本人尋問の結果は、前掲証拠および弁論の全趣旨と対比し、採用ないし措信せず、他に右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、本件事故と相当因果関係のある欠損歯は、上部四本、下部七本、合計一一本である(下部右側の5については、原告は、立証責任を尽していないものというほかない。)といわざるを得ない(但し、だからといつて、本件事故と相当因果関係の射程内にある“取替補綴を要する”歯牙が、果して、右の一一本であるか否は、別論である。後記(二)、2、参照。)。
(二) 歯牙欠損に基く損害
1 逸失利益(主位的請求)について―歯牙補綴により、原告の労働能力が喪失したことを認めるに足る証拠は存しない。また、経験則上も、特段の事由=たとえば、原告の職業が特殊なものであること等=の主張、立証のない本件の場合においては、歯牙補綴により、原告の労働能力が喪失、低下することは、ないものと考えられる。したがつて、その余の点につき吟味するまでもなく、原告の歯牙欠損に基く逸失利益の請求は、理由がない。
2 取替補綴の費用(予備的請求)について
原本の存在とその成立について争いのない甲第五号証の二、同第一四号の一ないし四(但し、後記採用しない部分を除く。)、成立に争いのない乙第二号証、証人中谷伸家の証言(但し、後記措信しない部分を除く。)および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、本件事故と相当因果関係のある欠損歯は、前記のとおり、上部四本、下部七本であるが、上部の欠損歯は、数が少ないので、個別的補綴(ブリツジ方式)が可能であるが、下部の欠損歯は、数が多いため、有床義歯(座が付いているもので、手で取りはずせるもの。)の方式で補綴しなければならない。そのためには、前記、C3慢化perの状態にあつた、下部左側の4、5および欠損の理由が明白でない、下部右側の5、以上合計三本も含め、下部左右両側の各1ないし5(すなわち、合計一〇本)を一体にして、有床義歯を作り、装着しなければならない。したがつて、取替補綴の費用上、右の三本の存否が、減額的に影響することは、あり得ない(すなわち、“取替補綴を要する”歯牙如何という観点にたつ時には、右の三本も=したがつて、上下部合計、一四本が=、取替補綴を要するという点において、本件事故と相当因果関係の射程内にあるもの、というべきである、と考える。)。
義歯に用い得る材料を、低額(衛生度、機能度、外観の回復度が低く、耐用年数も短い。)から高額(右と反対である。)へと順次、列挙すると、<1>歯牙にレジン(プラスチツク材)を、台に非金属を使う場合、<2>歯牙に硬質のレジンを、台に金属を使う場合、<3>ポーセレン(陶材)を使う場合、<4>メタルボンドポーセレン(金属焼付をした陶材)を使う場合の、ほゞ四ランクに区分できるところ、<1>は、健康保健がきくが、<2>は、きかず、<3>は、<2>の倍額近くの費用を要し、<4>は、最高級品である(しかして、原告は、後記のとおり、本件事故後における歯牙の補綴に、右<2>の材料を使用したので、仮に将来において取替補綴を要するとしても、右<2>の材料の使用で十分である、と考える。)。
耐用年数は、右<2>の材料を使用し、上部をブリツジ方式で補綴した場合、一二ないし一五年、下部を有床義歯方式で補綴した場合、七ないし一〇年であり、したがつて上、下部あわせて平均すると、一一年{(12+15+7+10)÷4}である。ところで、原告は、本件事故後の満二八歳の時に前記一四本=上部四本、下部一〇本=の歯牙の補綴をしたものである(そうすると、原告の右歯牙一四本は、将来における原告の平均余命の約四六年=公知=の間にわたり、約四回、取替補綴を必要とするものといつて差し支えない、と考える。)。
原告は、右の、本件事故後における歯牙の補綴に際して右<2>の材料を使用し、かつ、右の上部四本をブリツジ方式、右の下部一〇本を一体として有床義歯方式で各補綴したが、その所要費用の合計は、金五八万円で、その内訳は、次のとおりであつた。
上部―<1> 欠損歯(左右各1、2)一本、金四万円、四本分、金一六万円。
<2> 右欠損歯を支える支台(左右各3、4)一本、金五万円、四本分、金二〇万円
<3> 合計、金三六万円。
下部―<1> 右一〇本を一床として装着するところ、一床分、金一〇万円。
<2> クラスプ(右の床=座=を保持するために引つかけるための金具)一本、金一万円、二本分(左右の各6の歯牙に引つかける。)、金二万円。
<3> 右クラスプを支える右記の左右の各6の歯牙の歯冠修復費一本、金五万円、二本分、金一〇万円。
<4> 合計、金二二万円
(なお、中間利息の控除の点については、認定した損害額に対し、本件事故当時=原告は、実質上、二八歳=より、年五分の割合により遅延損害金を付す以上は、原告が最初に歯牙補綴をした前記の満二八歳から、将来取替補綴の必要な、一一年後、二二年後、三三年後、四四年後の各期間に対応する分の中間利息を、年五分の割合によりホフマン、年別、単式の方式で控除すべきものと考える=将来の取替費用につき中間利息を控除した裁判例は、当庁昭和五三年五月二日・交通事故判例速報一四八号、東京地裁昭和四九年一二月一八日・判時七六六号、同地裁同年一月二二日・交民集七巻一号、同地裁同四六年二月二三日・判時六六八号一四頁、同地裁同四五年三月一六日・交民集三巻二号、同地裁同年三月一一日・交民集同巻同号、東京高裁同三九年七月三日・交通事故判例百選旧版、等、多数存する。=。)
(そうすると、原告に必要とされる将来の取替補綴のための費用は、金一〇五万〇三八〇円となる。なお、ホフマン係数は、小数点第五位以下を切捨てる。
算式 580,000×1.811 0.6451+0.4761+0.3773+0.3125=1,050,380)
以上の事実(但し、各段落の末尾の( )内は、判断)を認めることができ、これに反する甲第一四号証の一ないし四および証人中谷伸家の証言の各一部は、前掲証拠および弁論の全趣旨と対比し、採用ないし措信せず、他に右認定に反する証拠はない。
(因に、被告の主張2中の、労災の適用の点であるが、仮に原告に対し将来労災の適用があるとしても、「いまだ現実の給付がない以上、原告に対し認定した損害賠償額から控除すべきではない。」=最判昭和五二年一〇月二五日判決、参照=と、考える。)
(三) 慰藉料
成立に争いのない乙第三、第四号証、証人中谷伸家の証言、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、原告は、妻の出産の前日に本件事故にあつたため、妻に対し付添い等をなし得なかつた。また、本件事故のため休職したことによる将来における昇進や昇格に対する影響は、今のところ、目に見えるほどにはないという程度にとゞまる。さらに、原告は、前記のとおり、義歯で補綴したため、肉やてんぷら、フライ等を食べる時に支障があり、食べた物が歯の間にはさまつたり、食後等に口臭を伴つたりする上、味に対する感覚も多少衰えている。尤も、義歯であることに基く、日常生活に影響する程度の言語障害は、原告には、見られない。なお、原告は、自賠責保険の調査事務所より、後遺障害として、前記歯牙補綴に対し、後遺障害別等級表一二級三号、右膝関節部痛に対し、同表一四級九号(局部に神経症状を残すもの。)に各該当する。=但し、併合はできない。=旨、認定された。
以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
右認定事実に、前記認定の、本件事故の態様、受傷の部位と程度、治療経過、入通院期間、後遺症の内容と程度、特に、自賠では、歯牙補綴に対し後遺障害一二級としてしか認定されなかつたけれども、“取替補綴を要する”歯牙としては、一四本分が本件事故と相当因果関係に立つこと、将来も四回にわたり右歯牙の取替補綴を必要とすること、年齢、その他諸般の事情を付加して、総合考慮すると、原告の本件事故に基く慰藉料額は、総額として、金二九〇万円とするのが相当である(入通院に対する分は、入院約三月、通院約一一月=実日数一〇日を約一月とみて計算=であり、かつ、受傷の程度は重傷と軽傷の中間とみるべきであるので、金一〇〇万円とするのを相当と考え、また、自賠で認定された後遺障害一二級に対する分は、昭和五三年七月一日に前記等級表の限度額が引上げられたことに伴い、本件事故当時における同表の限度額の一〇〇%=八〇%ではなく=、すなわち金一〇四万円とするのを相当と考え、さらに、右二点以外の諸点を勘案して、総額としては、前記のとおり、金二九〇万円とするのを相当と考えた、次第である。)。
(四) 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、金四〇万円とするのが相当である。
第三結語
よつて、被告は、原告に対し、金四三五万〇三八〇円および内金三九五万〇三八〇円に対し本件不法行為の日である昭和五〇年五月三〇日から、残金四〇万円に対し訴状送達の翌日であることが本件記録上明らかな同五三年二月二四日から、各支払済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるから正当として認容し、原告のその余の請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柳澤昇)